井戸

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氷結レモン一缶分の酔い

10/02(日)

ゆっくり起きた。Tシャツにパンツ姿のままベランダで煙草を吸うと、日差しが首の後ろをジリジリと刺す。天気の良い日みたいだ。午前中のうちに出来るだけ仕事をこなしておきたいと思っていたが、全然やる気が出ない。部屋が明るく、時間はゆっくり感じられた。とりあえずラフスケッチだけ描いて、昨日買った漫画を読んで過ごした。

恋人は早々に整体に出かける。こいつはどうしてこんなに1人でアクティブなんだろう。彼の日常のほとんどは僕と出かけるか、あるいは1人でカフェや飯屋に出かけていく。今まで出会った誰よりも友達が少ない。職場にも地元にも(恐らくネット上にも)友達がいない。彼が連絡を取っているのは大学時代の同級生ただ2人だけだ。
1時間ほどして、彼がタイ料理屋の弁当を買って帰ってくる。嬉しい!久しぶりに食べた。ここの太麺焼きビーフンが僕は大好きだ。ガパオライスはヒリヒリと辛くてウマい。テレワークしている時はよく食べてたのに。顔を覚えてくれていた女店主はもう僕のことなんて忘れてしまっただろうか。

18時、押上駅へ。昨日、Twitterの相互フォローの人と黄金湯に行く約束をしていた。湯船に浸かって足を伸ばしたい、と毎日のように思っていたもののずっと行けておらず、たまたま目に留まったツイートにリプライを送っていた。なんとなく波長が会う気はしていたし、断られたとしてもそんなに痛手はないと思っていたら快諾してもらえた。

うまく待ち合わせられなかったらどうしよう、と不安だったけど、地下の改札の前には誰も居なかったためすぐ分かった。小柄で穏やかそうな人だった。名字を名乗り「何て呼んだらいいですか?」と聞くと下の名前を名乗られる。そのまま呼び捨てか、「さん」か「くん」か。下の名前に「さん」付けはかえって余所余所しくしてしまう気がする。距離の掴み方が分からなくて、結局その日、僕が彼の名前を呼ぶことはなかった。

サウナに入るには1時間40分も待つとのこと。ここってそんなに混むんだ。午前中にしか来たことが無かったので驚いた。待つのも変なのでサウナ無しで入場する。横並びで体を洗いながら、出身地や家族構成、今の住居などについてポツポツと会話をした。彼は落ち着いたトーンで静かに話すためたまに笑顔が見えると嬉しくなる。
サウナが無くても、熱湯と水風呂を繰り返すだけで十分気持ちいいし、話も出来てかえって良かった。兄弟の話。彼女の話。結婚の話。Twitter経由で会った人はいるか?という話題で、彼は過去1人だけ会ったけれど、3.4回会った後にアカウントが消えてしまって連絡が取れなくなったと話していた。礼儀正しいし落ち度があるようなタイプには思えなかったので、相手はおそらく全く別の理由で消してしまったのだろう。LINEを交換しなかったことを悔やんでいた。接点の無い人だから気軽に会えるし、気軽に絶てる。スマートな世界は薄くて軽い。僕まで勝手に寂しい気持ちになった。

彼の左乳首の横に黒子があったので、乳首が2つあるみたいですね。と言うと黒子とりたいんですよね‥と返される。失言した、と思った。デリカシーない発言だったかもしれないと反省した。可愛らしい特徴だなと思って言ってしまったけれど、女性の乳首に対する慎重さに対し、男の乳首に対する配慮は欠けていた。

銭湯を出て、風の気持ちいい夜道を歩く。喫煙所にも付き合ってくれた。彼のおすすめの「亀戸餃子」に向かったがあいにく店は閉まっていた。良い店感が溢れ出ていたので悔しい。すっかり餃子の口になっていたのに。代わりに、ともう一つ勧めてくれた「麺屋佐市」へ。牡蠣ラーメンを食べる。おすすめだけあってめちゃくちゃウマい。地元にあった人気の牡蠣ラーメン屋を思い出した。それぞれレモンサワーを頼むと、氷入りのグラスと氷結が出てきた。氷結もまた、久しぶりの味だった。

食後、また喫煙所へ。僕のピースライトを一本あげる。「うまいっすね‥」と小さな声で呟いていた。奇声をあげる老人、人が群がる大道芸。錦糸町の夜ってこんな感じなんだ、と思った。解散してDMでお礼を言った後LINEを交換する。話題に上がったビアバーに今度行きましょう、となった。隣駅に住んでいた友人が越してしまって失われたままだった銭湯友人が出来たかもしれない。温まった身体と程よい夜風、彼の話すトーンとリズム。牡蠣ラーメンで膨れたお腹。氷結レモン一缶分の酔い。向こうがどう思ったから知らないが、僕は誘ってみてよかったと思った。気持ち良くて、帰りの電車は少しウトウトしてしまった。