井戸

noteから移行しました。

ひとりになったりもする

9/2(金)
19時に仕事を終え、先輩2人と後輩男子の計4人でオフィスの近くにある区民プールに行った。僕がたまに泳いでいる話をした時、興味を示してきた人たちだ。オフィス近くのスポーツセンターは同区の在勤者だと安く利用できるとのことで行ってみることになった。とはいっても一緒なのは入って準備運動をするまで。後は各々黙々と泳ぐ。いくつかのレーンに分かれたことと、そこそこ混んでいたこともあり、あっという間に同僚達を見失う。ラクだった。自分のペースで好きなだけ泳ぐのがいい。ひとりの先輩とは以前スノボに一緒に行ったことがあるが、その時も同じで、リフトから降りると滑るのは一人だった。行き帰り一緒にワイワイするのがいいけど、いざやる時は1人になれる。走るのも然り、そういうスポーツが好きだ。邪魔されないし邪魔しない。同じような動きを繰り返しているうちに、息が上がって頭が熱くなってくる‥みたいなことを書きそうになってハッと気付いたけど、そんなことより勝ち負けのあるスポーツが嫌だったんだ。勝って(必要以上に)嬉しくなる自分がみっともないし、負けて機嫌が悪くなるのも情けない。あーあ‥という気持ちになりたくない。というか負けたくない。負けたら色んな言い訳が頭を駆け巡るのが惨めで辛い。負けるのが下手だ。負けることが(悔しいことが)心苦しい。苦しくならないスポーツがしたい。だから誰とも干渉せず、ただ一人で体を動かしたい。単純に体が疲れてキモチヨくなりたい。行き帰りを一緒にワイワイするのは良い。だからやっぱりプールとスノボは良い。とんでもなく不器用だと思う。僕は500m泳いで出た。シャワーが個室になっていたのがよかった。ひとりの先輩は僕ら3人より後に上がり「1000m泳いだぜ‥」とイキっていてダサかった。

プールから上がったあとはビルの真ん中にある夜の公園でアイスを食べて、サムギョプサル屋で飲んだ。店内では喫煙できなかったが、僕が煙草を持っていることに気付いた従業員が半地下にある薄暗い食材庫に案内してくれた。棚にはその人のものと思しきアメスピと1000円札と小銭、横には大量の卵が積まれていた。汚くて胡散臭くてとても良かった。


9/3(土)
「セブンルール」で紹介されていた「あずきとこおり」というかき氷屋に行った。カウンター7席しかない店なのだが、恋人がいつの間にか予約を獲得してくれていた。フレンチのシェフが作るひとつ2500円のかき氷。これから5年分くらいのかき氷を1時間に凝縮するつもりで向かった。僕が頼んだ「プルーンとメレンゲ」はふわっと溶ける氷の上にさっくりしたメレンゲとプルーンのみずみずしい実、中にはジャムなどが層になって入っていた。ウマかった。そこそこ驚くくらいには。食感や味の濃淡がしっかりしていて、飽きずにペロッと食べることが出来た。でも、それはあくまでかき氷界の中で一番おいしいという感じだった。かき氷はどこまで高みを目指しても所詮水で、生地には叶わないなと思った。

そのあと田町にあるサウナ「paradise」に行く。僕は会社の人と来たことがあるが恋人は初めてだった。一回サウナと水風呂に入ったところで彼は「ごめんもう出る」とすぐ脱衣所に行ってしまう。気分でも悪くなったのか?と心配をしたが、どうやら顔見知り(に見える人)が居たらしい。彼はこういう「予期せぬ接触」を極端に嫌う。徹底した鎖国っぷりを発揮していた。まあここは時間制だし、割高なサウナなので早く出ても別にいいやと思った。
残された僕はひとりで火照った体をしっかり冷まし、休んでから出た。相変わらず若者とマッチョが多く、意識高い空間だな〜と思った。忙しなくて落ち着かない。僕が水風呂に入っていると、ちんこ以外ほとんど全身刺青の入った人が入ってくる。サイボーグみたいだった。張り巡らされた墨の真ん中、ポカッと丸く空いた地肌のスペースに垂れ下がるズル剥けちんこはさながら兵器のように見えた。ちんこには刺青入れられないのかな。亀頭はともかく包皮にはいけそうな気がするが、勃起したら柄が伸びてしまうからだろうか。

帰宅すると2人ともすぐ寝てしまった。先日恋人が通販で買ったLサイズのシャツが届いていたのだが、開封するとなぜかXLだった。販売元に問い合わせてみるも「返金いたしますので、商品はお客さまの方で処分していただけますと幸いです」という返事。触り心地が微妙だったから別にもういいけど、処分してくれとわざわざ言う必要無いのでは?と思った。


9/4(日)
ひとりで千葉県にある川村記念美術館に行った。企画展「カラーフィールド」の最終日だったからだ。川村記念美術館は友人Aが好きな美術館で、以前にも2人で行ったことがある。常設で「マーク・ロスコ」の作品が7点ぐるっと展示されているロスコルームはこの絵のための「特別な部屋」という感じがして、いつ行っても良い。他の部屋もこの場所らしい静かさや空気の冷たさがあって、絵云々以前に、行くだけで気持ちがいい美術館だ。

東京駅から総武線で13駅たっぷり揺られて辿り着く、何にも無い街から更に送迎バスで30分。田んぼや畑道を越えた先の森の中に川村記念美術館はある。Aが「何回も行った」と勧めてくれて、どうしても観たかったカラーフィールド展は2部構成になっていた。1部はリキテンスタイン、モネ、マグリットマティス中西夏之、サイトゥオンブリーなど様々な作家のコレクションが「赤の部屋/青の部屋‥」と色別に展示された展示室。全然違う技法や歴史を持った作品群を「ただ色が似ている」だけでくくって観るのは新鮮だし、かえってそれぞれの目的の違いが浮き彫りになるようで面白かった。2部目は近代「色」をテーマにした9人の作家の展示。こちらもめちゃくちゃ見応えがあった。色や構成の緊張感は勿論よかったし、ジュールズオリツキーの絵を何度も何度も見返してしまった。まるでボケた写真のように、色が溶け合って重なり霞がかかったような(それでいてデカい)絵。どういう構想をしてこの仕上がりに辿り着けるんだろう。盛り塗りされたテクスチャがギンギンに生きた作品には、画像や画集では到底再現できない実物の凄みがあった。他にも、ケネスノーランドの、キャンバスの眼の上にピタッと厚塗りされた絵の具が照明によって細かくキラキラしていたのがきれいだった。自分も色彩構成をしているときに「気持ちのいい厚塗り」が出来た瞬間ってあったな‥と思い出す。モーリスルイスは元々好きだったのだが、この並びで見ることにより、一層好きだなと思うことができた。完売していた画集の受注予約をした。

展示の良さに浸りすぎてぼーっとしていたのか、帰りの送迎バスの中に財布を置き忘れる。幸い電車に乗る前に気付いたため、美術館に電話をかけ、そのまま何もない駅で1時間待つことにした。セブンの喫煙所でひたすらに煙草を吸った。往復のバスではpodcastを聴いていた。もし誰かと来ていたら、クソみたいな待ち時間で申し訳ない気持ちになっていただろう。ひとりで来て良かったなと思った。丸の内で買い物をして帰宅した。朝10時に出て帰ってきたのは18時くらいだった。ひとりでこんなに長旅したのは久々だったように思う。