井戸

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飲み屋街の極楽浄土


0704(月)

朝から打ち合わせばかり。8月に大きな企画会議があるため、ここのところ新しい案件がバンバン入る。7/1付けで転職してきた40代のデザイナーと初めて一緒に打ち合わせ。丸眼鏡をかけた熊みたいな人だった。仲の良い先輩と入れ替わりで僕とチームを組むことになっていたため、始めはドキドキしていたが喫煙者だと分かって少し安心する。会話のペースも合いそうだった。仲の良い先輩が人員配置してくれただろうから、きっとその辺も考えてくれているんだろう。

昼を食べ損ねたままに忙しなく働いて19時に終わり。喫煙所で企画部の1歳年下の男(とても小柄で、印象としてはあたしンちのユズヒコを想起させる)と会う。田町にある男性専用サウナ「paradise」に行ってみたいという話を以前からしていて、この日このまま2人で行くことになった。今年の4月にオープンしたばかりで、記事には「極楽浄土がコンセプト‥」と書かれていた。

paradiseは飲み屋街の中に、飲み屋と変わらない店構えで唐突に建っていて、始めは気付かず通り過ぎてしまった。店の写真を撮ろうとするとユズヒコがピースをしてくる。映りたがりな奴、良い。受付で登録を済ませて中に入ると、ネットで見た通り、吹き抜けの2階建てで1階にサウナと風呂、2階には休憩スペースがあった。植栽で飾られた木製の中央階段を全裸の男たちが昇り降りするのは、見るたびにシュールで笑ってしまう。脱衣所等は思っていたよりこじんまりしていて、狭いスペースを無駄なく使っているような構造だった。タイル貼りの壁など、全体的に綺麗で狂いつつもセンスはいい感じ。

月曜の夜なのにそこそこ客は入っていた。若めで、今時の人達。パイパンの人がやけに多い。田町という場所も相まって、都心のサラリーマンや慶応生が多いのだろうか。サウナは熱くて湿度が高く、水風呂は冷たすぎず、全体的に程よい感じだった。休憩スペースに並ぶラタンの卵型椅子には、全身を預ける形で座ることができる。その心地よさにユズヒコのテンションが上がっていた。サウナの後、椅子に座ると扇風機の風が直に当たって、だんだん脳内が気持ち良くなっていく。僕の斜め前に座るユズヒコも「達した」顔をしていた。彼は高校生みたいに線が細い体つきで、もっさりと生えた色素の薄いちん毛が扇風機の風に揺れていた。

2周してから湯船に浸かって出る。全体的に良かったけど初回30分750円、それ以降10分250円は流石に高い。1時間1500円。いい商売だな‥と思った。エントランスのソファにユズヒコがドカッと座って、「出たら絶対座りたいと思ってたんスよ!ふかふかっス」と楽しそうにしていた。棚に並べられたステッカーを眺める横顔を見て、欲しいんだろうな‥と思ったが、1枚300円の値札を指差して「巻き上げてますね」と呟いていた。

上機嫌な彼とそのまま晩飯を食べることにする。店に入る前に喫煙所。喫煙者同士で遊ぶのはこの辺がラクだ。サウナで整ってすっきりした頭蓋の内側を、煙草の煙で濁していくのが最高に気持ちいい。定食が食える寿司屋に入る。ボーナス出ましたしね〜なんて話しながら。仕事こそ一緒にしてるものの、個人的な話は今まであまりしてこなかった。彼女と同棲してると聞いていたが、ちょっと前に別れたらしい。結婚したかったけど彼女のお母さんの浪費癖が激しすぎて、次々と借金が発覚し問題になり、何故かユズヒコが肩代わりをして別れたとのこと。そんな話本当にあるんだな‥と思った。別れるなら肩代わりしなくても‥と思ってしまうのは僕が薄情だからかもしれない。別れるのが大変だったと言っていたが「こんな状況、でも好きで」と決断を鈍らせる何かがその彼女にあったならばそれは何だったのかを聞いておけばよかった。彼は何かに執着心を持つ様子があまり感じられないので不思議だった。
最近の話も聞く。一見弱そうに見えるが結構肝が据わっていて、やることやってるのが彼の良いところだ。帰り際、もう一度喫煙所に行って、麻雀を嗜みたいという話をするとユズヒコはえらく共感してくれて「俺らが欲してるのは吸える遊び場っスよね」と言っていた。またプレゼンの後にでも行きましょう、と言葉を交わして駅で別れた。